「総務やさん」第1036号
●トランプ政権の近未来
・・・・(株)総務システムサービス
代表取締役 伊藤 碩茂(ヒロシゲ)
アメリカ大統領選挙が終わりました。トランプ政権は「アメリカファースト(アメリカ第一主義)」を掲げています。右傾化しつつある政策は世界に多大な影響を与えそうです。もし「アメリカファースト」がさらに進行した場合、世界はどのように変わっていくのでしょうか。
1.多国間主義の後退と国際機関の弱体化
トランプ氏は国連を始めとする国際機関に対して批判的な傾向があります。そのため、アメリカがこれらの組織から一方的に撤退したり、影響力を低下させたりすることが今後進められた場合、国際的なルール作りが弱体化し、各国が独自に行動するリスクが高まる可能性が考えられます。
2.グローバルな経済秩序の不安定化
トランプ氏が大統領選で勝利したことで、経済的な見通しについて不安な方も多いかと思います。貿易協定の再交渉や関税の引き上げ、中国との貿易戦争など、経済秩序が不安定化し、経済的な分断が進む恐れもあります。
3.アメリカのリーダーシップの衰退と他国の台頭
アメリカが他国に対して強硬な立場を取る一方で、国際社会のリーダーシップを発揮できないと、中国やロシアなどの国々が国際的な影響力を強化する機会を得て、国際的なバランスが変わる可能性があります。
4.民主主義と人権の後退
独裁的なリーダーシップを賞賛し、人権や自由に対する懸念を後回しにする態度が広がると、権威主義的な政権の台頭が助長される可能性があります。それにより民主主義の後退と政治的自由の制限が進む恐れがあります。
上記で述べたように「アメリカファースト」の進行が世界に与える影響は多岐にわたりますが、特に筆者が注目しているのは国際協調の弱体化とアメリカを中心としたリーダーシップの変容です。
多国間での協力が難しくなり、経済や安全保障、環境問題などさまざまな分野で亀裂が生じる可能性があります。しかし、同時に他の国々にとっては、独自の影響力を強化するチャンスともなり得るため、国際社会はしばらく変動し続けることになるでしょう。
●生成AI時代の電力
・・・・野田 貴仁(のだたかひと)
最近、生成AIがかなり身近で不可欠なものになってきています。
ほとんどの生成AIは、クラウド上に構築されているものを利用する形です。これらの生成AIを稼働させるコンピュータはデータセンターと呼ばれる専用の施設に設置されています。
今後、生成AIの需要が増えると、データセンターで稼働するコンピュータ資源も増え続け、データセンター自体も増加します。単純に考えると、その分だけ電力使用量も増加することになります。
すべてのデータセンターが消費する電力量の将来予測が出ています。
2018年のデータセンターの消費電力は国内で15TWh、世界で190TWhと推定されます(TWhはテラワットアワー。1TWh=1000GWh=100万MWh=10億KWh)。
さらに、現在の計算負荷の増大傾向が将来にわたって継続し、現在入手可能な最新機器を用いたと仮定したときの(将来の技術進歩は織り込まない)消費電力量は、2030年に国内が90TWh、世界が3,000TWh、2050年には国内12,000TWh、世界が500,000TWhと推定されています。
ちなみに現在の国内の一年間の発電量は約900TWhですので、このままだと全く足りません。世界の発電量は約27,000TWhなので、これもまた消費量が桁違いに多くなります。
ただ、この消費電力予想は、ネットワークの通信量の増加予想と比例して予測されており、機器の性能向上は織り込まれていません。ですので、この値から機器の処理能力が向上する技術発展分を差し引いて考える必要があります。
技術発展の予測には、ムーアの法則を用いるのが妥当です。
ムーアの法則とは、半導体回路の集積率が24か月ごとに2倍になるという技術向上の経験則です。元々は18か月ごとに2倍でしたが、現在は24か月ごとに修正されています。
半導体の集積率が2倍になると、同じ大きさの回路に2倍の半導体が配置できるようになります。処理能力もおおよそ2倍になり、電力使用量が変わらないとすれば、電力効率も2倍と考えることができます。
2年後に2倍ですから、4年後には4倍、6年後に8倍、8年後に16倍と増えていくと、20年後は約1000倍になる計算です。
先ほどの電力使用量予測では2030年から2050年の20年間に、国内が133倍、世界が166倍に増えていますが、ムーアの法則通りに技術発展していったと仮定すると1000倍に向上するため、十分に賄える数値といえます。逆にいえば、ムーアの法則通りに技術発展し続けなければなりません。AIの存続のためにも技術発展は必要です。現在、世界中が半導体研究に取り組んでいます。我が国が先頭を切ることができたら素晴らしいですね。
【参考】
1.日経クロステック「データセンターは「ギガワット」時代に、
AI需要で電力消費が4年で倍増の危機」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02924/082600003/
2.NTT - OPEN HUB「生成AI時代の次世代型データセンター」
https://openhub.ntt.com/journal/12009.html
3.国立研究開発法人科学技術振興機構低炭素社会戦略センター
「情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響(Vol.1)
―IT機器の消費電力の現状と将来予測―」
https://www.jst.go.jp/lcs/proposals/fy2018-pp-15.html
4.情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響(Vol.2)
―データセンター消費エネルギーの現状と将来予測および技術的課題―
https://www.jst.go.jp/lcs/proposals/fy2020-pp-03.html